近年、エンジニアはどこの企業も採用を強化しているため、他社と差別化する必要があります。この差別化を図る手法として注目されているのが、採用ピッチ資料になります。
エンジニアに向けたものを作ることで、ダイレクトに魅力を伝えることができるのです。
一方で、エンジニア向けの採用ピッチ資料を作成する際、「作成するコンテンツが分からない」「デザインに悩む」といった課題を抱える企業も少なくありません。
本記事では、エンジニアに向けた採用ピッチ資料の作成について、作成手順や入れるべき項目、実際の採用ピッチ資料の事例について紹介します。
採用ピッチ資料とは?
採用ピッチ資料は、企業の紹介資料の一種です。
従来の会社紹介資料とは異なり、良い側面だけでなく、事業上の課題や職場環境など、自社の実情を包み隠さず伝えることが特徴です。自社が求める人材に向けて応募や志望意欲を高めるだけでなく、実情を伝えることで採用ミスマッチを防ぐ役割も担います。
WebやSNSを活用した求人活動が拡大し、求職者は多様な情報を元に仕事選びを行っています。企業が自分に合っているかどうか、また入社後のギャップを埋めるためにも、企業の良い面だけでなく、実情を含めた透明性の高い情報を求める傾向が強まっています。
こうした背景もあり、採用ピッチ資料は近年注目され、活用する企業が増えています。
エンジニア向け採用ピッチ資料とは?
エンジニア向け採用ピッチ資料とは、その名の通り、エンジニアの採用に焦点を当てた採用ピッチ資料を指します。
自社で働く魅力を具体的に伝え、自社理解を促し、応募意欲を高める点は採用ピッチ資料と同様ですが、組織体制や開発フロー、技術スタックなどエンジニアならではの情報を追加するのが特徴です。エンジニアとして働くうえで、スキルの活かし方や働き方のイメージをもちやすくすることができます。
エンジニアの採用難易度が高まっていることもあり、エンジニアに特化した採用ピッチ資料が近年注目されています。
エンジニア向け採用ピッチ資料が注目された理由
注目された背景に下記のような理由が挙げられます。
エンジニアの母数が少ない
IT業界では、中途採用が焦点となっています。特にITエンジニアの希少性が際立ち、転職市場においてエンジニアの求人倍率は10倍を超えています。
これは求職者1人当たりに対して10件の求人があることを示しており、全職種で最も高い倍率です。この傾向は直近の約3年間で拡大しており、他の職種と比較しても突出しています。あるレポートによると「エンジニアの求人数は他の職種とほぼ同じだが、その倍率が高いのは求職者の数が少ないことが影響している」と述べています。
また、IT業界内での転職はSIerに限らず、ネット企業や外資系ITコンサルティング企業など、異なる業種への転職が一般的になっています。
働き方が多様化した
現代社会では、働く人々の生活環境やライフスタイルに合わせて、多様な働き方が求められています。
この働き方の多様化が重要視される背景には、新型コロナウイルスが影響しています。
2020年5月に東京都が実施した「テレワーク導入率緊急調査結果」によれば、都内に拠点を持つ従業員30名以上の企業におけるテレワークの普及率は、同年3月の24%から62.7%に増加しました。
テレワーク以外にも、副業・フリーランス・派遣社員など、雇用形態も多様化しています。この状況下で自社だけにコミットしてくれるエンジニアを見つけるのは非常に難しいので、入社するメリットや今後のキャリアパスなどを伝えるといいでしょう。
エンジニア向け採用ピッチ資料の作成手順
以下は資料作成の手順についての解説です。
01. 作成する目的を決める
02. ペルソナを設計する
03. 掲載する項目を決める
04. デザインを決める
05. 情報を更新し続ける
エンジニア向けの採用ピッチ資料を作成する際には、まず目的を明確に設定することが重要です。採用ピッチ資料の目的に基づいて、情報をどのように伝えるか、どのような内容を盛り込むかを具体的に考えていきます。
内容や順序を整理することで、情報漏れを防ぎ、伝えたいメッセージをより明確に伝えることができます。
目的を決める
採用ピッチ資料を作成することで、「採用課題がどのように解決されるのか」を明確にします。
課題が明確でなければ、なんとなく採用ピッチ資料を作成してしまうことになりますので、中身が薄いものとなってしまいます。
例えば「面接後のミスマッチが発生してしまい、早期離職が絶えない」といった場合、情報量の不足が挙げられます。ミスマッチは、社員インタビューや入社後のキャリアパスなどを掲載することで、減らすことができます。
このように目的をはっきりさせることで、採用ピッチ資料の内容や強調ポイントなど、目的に応じて有効的に活用することができるでしょう。
ペルソナを設計する
ペルソナとは、自社が採用したい理想の採用像のことを指します。
ペルソナを設計することで、伝えたいメッセージを明確にできるだけでなく、ペルソナに刺さるようなコンテンツ設計を行いやすいので、スムーズに作成することができます。
設計する際には、より詳細に具体的に設計しましょう。
・名前
・年齢
・学歴
・家族構成
・現在の職業
・保有スキル
・転職を決めた理由
・会社に求める条件
また、ペルソナを設計する際には、自社の理想だけを詰め込まずに、市場を分析した上で適切な条件を設定することが重要です。下記にペルソナの設計の仕方について詳しくまとめていますので、併せてご覧ください。
掲載する項目を決める
以下の点に留意しながら、エンジニア向け採用ピッチ資料に含める項目を決定していきます。
・自社の基本情報が十分に含まれているかどうか
・採用ペルソナが求める情報が適切に伝えられているか
自社の伝えたい情報だけを盛り込まず、エンジニアがどのような情報にニーズを感じるかを考える必要があります。内容に迷った場合は、他社の採用ピッチ資料を参考にしてみるのもいいでしょう。
デザインを決める
項目や内容が決まったら、採用ピッチ資料のデザインを検討します。
デザインを作成する際には、自社のテーマカラーをメインカラーとして使用するといいでしょう。カラーを統一することで、ブランディングが確立しやすく、候補者の印象にも残りやすいです。
デザインは、企業の印象を左右する大事な部分でもありますので、もし自社にデザイナーがいない場合は外部に委託することをおすすめします。ただし、スムーズに作成まで持っていけるよう、大まかなデザインは自社で決めておくといいでしょう。
情報を定期的に更新する
企業や組織の状況は絶えず変化するため、定期的な情報の更新が必要です。
たとえば、売上実績や導入実績、従業員数など、企業の基本的な情報だけでなく、社員インタビューなども随時更新することで、候補者は新しい情報をインプットすることができます。
もし、記載されている内容が古いままだったり、誤っていると、企業の印象を損なう可能性がありますので、注意が必要です。
エンジニア向け採用ピッチ資料の項目例
次に、エンジニア向け採用ピッチ資料に含まれるべき項目について説明します。
ここでは、採用ピッチ資料に含まれるべき会社や事業に関する包括的な項目の例と、エンジニア向けの追加項目の例を分けて紹介します。
会社・事業内容
会社や事業に関する基本情報や、働く上で押さえるべき情報を含めます。
特に事業の展望や社員の日常、組織構造、評価制度や給与体系など、詳細な情報は、採用ピッチ資料において伝えるべき要素です。
1. 会社情報
・会社概要
・企業理念
・ミッション/ビジョン/バリュー
・代表メッセージ
2. 事業内容
・事業説明
・サービス紹介
・実績
・事業の目指す展望
・給与テーブル
・社内メンバーの比率(年齢・男女比・職種別など)
3. 職場環境
・組織体制
・オフィス紹介
・社員インタビュー
・福利厚生
・社内イベント
4. 募集要項
・求める人物像
・募集職種
・選考フロー
エンジニア向けの項目
会社や事業、職場に関する包括的な情報に加えて、開発体制や利用技術など、エンジニアに特有の要素を追加することが重要です。
・開発組織の体制
・開発環境/開発フロー
・各組織の役割・ミッション
・CTOの紹介
・エンジニア社員インタビュー
・数字で見る開発組織
・使用言語
・勉強会
・評価制度
・働く魅力
エンジニア向け採用ピッチ資料のメリット
エンジニア向けのピッチ資料を作成することで、求人媒体や全職種共通の採用ピッチ資料では伝えきれない情報を伝えることができます。では、具体的にどのようなメリットがあるのか、以下で見ていきましょう。
カジュアル面談の効率化
エンジニア向けの採用ピッチ資料は、カジュアル面談や面接を効率的に進めるのに役立ちます。
事前に候補者に内容を共有することで、よくある質問に回答する時間を削減できるだけでなく、ある程度会社理解がある状態で面接を行うので、よりコアな質問をしてもらえるので、質の高い面接を行うことができます。
特にエンジニアの採用では、会社の技術や開発体制など、多岐にわたる情報が必要です。そのため、採用ピッチ資料を活用することで、技術周りの疑問は事前に解消することができるでしょう。
志望意欲の向上
応募前や選考途中で採用ピッチ資料を共有することで、具体的なイメージを持ってもらえることが期待できます。
エンジニアの場合、開発体制や使用技術、取り扱う商品やサービスに関する理解が深まることで、自分のスキルや経験がどのように活かせるか、また開発プロセスがどのように進行するかなど、具体的なイメージを持ちやすくなるでしょう。
このように、具体的な働くイメージを持つことは、求職者の志望意欲向上にもつながります。
候補者の企業理解を深めるため
採用ピッチ資料は、面接前やエントリー前に共有することで、企業理解を深めてもらうことができます。
企業理解が浅い状態で選考に入ってしまうと、形式に沿ったありきたりな選考が行われてしまったり、すでにネット上に公開されている情報にも関わらず何度も聞かれてしまったりと、非常に効率の悪い選考になってしまいます。
また、近年は転職が当たり前の時代になっているので、せっかく入社してくれても企業の文化と合わずに早期離職につながってしまうケースもあります。
このような事態を防ぐためにも、採用ピッチ資料を作成して企業理解を深めてもらう必要があります。
企業の認知度向上
会社紹介スライドを作成し、オンライン上で公開することで、自社の知名度向上に貢献できます。会社紹介スライドが応募者の注意を引くことで、自社に興味を持ってもらうきっかけとなり、応募へと繋がる可能性があります。
会社紹介スライドは、一度作成すれば、自社ウェブサイトや求人プラットフォーム、SNS、リファラル採用のための資料として、また企業説明会などで活用できるため、さまざまな場面で自社の知名度向上を促進できます。
【2024年最新版】エンジニア向け採用ピッチ資料5選
エンジニア向けの採用ピッチ資料を5つ紹介します。実際に自社で作成する際の参考としてみていただけますと幸いです。
1. 株式会社リンクアンドモチベーション
株式会社リンクアンドモチベーションのエンジニア向け採用ピッチ資料は、ミッション、プロダクト、開発組織、開発環境などを38ページにわたって詳細に紹介しています。内容は基本の採用ピッチ資料と同じくらいの分量で、オーソドックスな資料作成を目指す方にとって参考になるでしょう。
2. サイボウズ株式会社
主力の商品・サービスに関する網羅的な説明と、エンジニアが関わる開発・運用体制の具体的な紹介が行われています。さらに、視認性が高いシンプルなデザインが採用されており、スライドごとのメッセージがわかりやすくなっています。
3. 株式会社iCARE
以下は、株式会社iCAREが提供する健康管理ソリューションサービス「Carely」に関する採用ピッチ資料です。全21ページとコンパクトな内容で、社員やイラストが多く盛り込まれており、視覚的にも読みやすい資料となっています。
4. 株式会社CARTA HOLDINGS
SNS広告&SNSアカウント運用やEコマース販売促進支援などの事業に関するエンジニア向け採用ピッチ資料です。この資料は、新卒採用、中途採用、学生インターン採用に向けた全67ページの内容となっています。技術組織としてのこだわりや事業説明、制度などが網羅的に説明されており、エンジニアの文化を理解できるように配慮されています。
5. atama plus株式会社
AIを活用した学習システム「atama+(アタマプラス)」に関する採用ピッチ資料です。表紙の「3分でわかる」という表記は、読み手のハードルを下げる効果があり、読まれやすい仕組みを作っています。また、資料内にはエンジニアの社員3人へのインタビューも含まれており、職場環境や社風を理解しやすく、カルチャーマッチ採用に成功しそうです。
まとめ
エンジニア向けの採用ピッチ資料についていかがでしたか?
一般の採用ピッチ資料と異なり、専門的な知識を要するため、自社のエンジニアに協力してもらいながら作成することを推奨します。
一度で完璧な状態を目指すのは難しいので、何度も見直してブラッシュアップし、微修正をかけながら完成させることを推奨しています。もし自社のリソースだけで作成するのが難しい場合は、外部に委託するのをおすすめします。